Jun Araki’s Blog
随所に主となれば立処皆真なり

2008 年 5 月 10 日

コンピュータ将棋が人間を破るということの正確さ

Filed under: Events,Hardware,Software — araki @ 10:15 PM

先週末、第 18 回世界コンピュータ将棋選手権にて優勝プログラムと準優勝プログラムがそれぞれ平手戦でアマトップの実力者を破りました。この事実はあまたのニュースで取り上げられていますが、これによってコンピュータ将棋がアマのレベルを越えた、というのはやや短絡的であり、言い過ぎであるような気がしています。

この出来事の要因には、CPU などのハードウェア上の進歩や学習アルゴリズムなどのソフトウェア上の改良も当然ながら有りますが、エキシビジョンマッチ故の人間に有利なルールや対局場所の雰囲気なども有ったと思います。具体的には、ルールについては持ち時間 15 分、切れたら 30 秒の秒読みという持ち時間に関するルールがあり、これはアマトップと言っても十分に実力を発揮する程の思考時間ではないと思われます。対局場所については、コンピュータ将棋の開発者やそのマシンが集う大部屋での対戦であったこと、また秒読みについては激指戦をネット中継で見る限りアマトップの方のすぐ隣りの席で読まれていたことから、アマトップの方にかなりのプレッシャーが有ったことは容易に想像がつきます。

対局後には、準優勝プログラムの作者棚瀬さんが、現在のコンピュータ将棋にも弱点があって、その弱点を突くような指し方をすればアマでも勝つことができるという意味のことを仰っていました。実対局では、コンピュータ将棋に対してがっぷり四つに組んでから戦うという流れでしたが、それはむしろコンピュータの得意な戦略であり、例えば現在のコンピュータ将棋の主たる弱点である序盤に攻撃を仕掛けるような戦略を採れば、アマであっても勝機はまだ十分にあるということかと思います。

もちろん、この対局はコンピュータ将棋の大会のエキシビジョンマッチであるので、上記の環境面については仕方が無い部分もあるかと思いますが、新聞記事などのニュースの多くにはこれらのことは省略されているので、その読者は記事を読んで短絡的にコンピュータ将棋がアマのレベルを越えたという思い違いをし易そうであるという意味で、いささか乱暴な印象を受けます。

しかしながら、その厳密性や正確性はさておき、現在のコンピュータ将棋のトップがアマトップと同程度の実力を持つということは事実であると言えます。さらに、このような公の場で誰々が誰々に勝った、負けたということは、細かな諸条件が無視され得る程に誰の目にも明らかな事実であり、この出来事はコンピュータ将棋の歴史に明確に刻まれていくものなのでしょう。

ちなみに、今回のこの出来事は、コンピュータ将棋は既にアマトップを破ったのだから、次にコンピュータ将棋が対戦すべき人間はプロ棋士になるでしょう、という分かり易い論理展開の根拠になり得ますが、将棋の文化という側面からも、その前に、エキシビジョンではないコンピュータ将棋と人間の対局について勝負としての公平さや厳密さを議論する契機になって欲しいと個人的には願っています。

1件のコメント »

  1. […] 昨年は優勝、準優勝プログラムがエキシビジョンマッチながらアマトップを破るという快挙が生まれましたが、今年は多くのチームが全体的にさらに強くなり、実力が伯仲した印象を受 […]

    ピンバック by Jun Araki’s Blog » 第 19 回世界コンピュータ将棋選手権大会に参加 — 2009 年 5 月 6 日 @ 10:23 AM

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